遺言は撤回出来ますか、逆に撤回出来ない遺言はありませんか

遺言作成後、もし内容を一部変更したくなった場合や全面的に撤回をしたくなった場合、どうすれば良いのでしょうか。

 

1 自筆証書遺言について

遺言内容の一部変更または撤回をする場合、理論上は、新たな遺言書を作成し、その遺言で以前に作成した遺言の全部または一部を撤回する旨を盛り込むことになります。

しかし、自筆証書遺言の場合は、遺言書自体を破棄してしまえば遺言が無くなるのですから、事実上はこれで撤回と同じことになります。

また、一部変更についても、遺言書自体を破棄して新たな遺言書を作成すれば事足ります。

 

2 公正証書遺言について

公正証書遺言の場合は、手許にある遺言書を破棄しても原本が公証役場に保管されていますので、撤回にはなりません。

その場合は新たな遺言書を作成し、その遺言で以前に作成した遺言の全部または一部を撤回する旨を盛り込むことになります。

ちなみに、新たに作成する遺言は公正証書遺言である必要はありませんが、作成日付の前後関係を明らかにするためにも、公正証書遺言によって行う方が良いでしょう。

なお、内容の矛盾する2通以上の遺言書が存在する場合、矛盾する部分については後に作成された遺言が優先し、先に作成された遺言の該当部分は効力を有しないことになります。

しかし、「矛盾」しているか否かの判断は必ずしも容易でない場合がありますので、「以前の遺言書を撤回する」との文言を盛り込んでおく方が無難でしょう。

 

3 撤回出来ない遺言は無いのか

以上のように、遺言書は遺言者が生きている限り、いつでも自由に撤回訂正が可能なものです。

一方、遺産を相続する側(相続人側)からすると「将来取得する財産を固定して、遺言内容を撤回出来なくして欲しい。」という要望があるのも事実です。

このような場合に良く利用されるのが、「負担付き死因贈与契約」というものです。

遺言と死因贈与契約は、どちらも遺言者の死亡後の財産の帰属を決めるという点で同じ目的を有しますが、遺言書は遺言者が単独で作成し、死因贈与契約書は“死亡を原因として財産を譲り渡す人”と“譲り受ける人”の2人で作成することになります。

具体例を挙げると、「私が生きている間、同居して面倒を見続けて欲しい。その見返りに、私が死亡したら、私の所有する土地建物を長男に贈与する。」という契約を、親と長男とが取り交わすことになります。

また、この場合に土地建物の将来における贈与を確実にするため、土地建物を生前に譲渡することが出来ないよう仮登記をすることもあります。

但し注意が必要なのは、このような死因贈与契約が取り交わされただけでは未だ撤回が可能であり、上記の例で言えば、長男が負担(=同居して面倒を見続けること)を既に履行しており、且つ撤回を許すことが酷な場合にのみ、撤回が出来ないことになります。

どこまでやれば撤回が出来なくなるのかについての判断は非常に難しいので、必ず専門家に相談して死因贈与契約書を作成することをお勧めします。

また、遺言の場合と異なり、死因贈与契約に基づいて不動産を取得した場合は、不動産取得税が課税されますので、この点の不利益は承知しておかなければなりません。

 

遺言は撤回出来ますか、逆に撤回出来ない遺言はありませんか