相続預金からお金が無断で引き出されているようなのですが…
相続財産調査の過程で、金融機関から取引履歴を取り寄せたりすると、被相続人の生前に多額のお金が引き出されていて、通帳を管理していた人の横領・着服が疑われるケースが多々あります。
このようなケースについては、実は必要な費用に支出していたような場合が多く(例:葬儀費用、被相続人の介護施設入所費用、日々の生活費等)、これを直ちに横領だなどと決めつけて責任を追及することは、「争族」発生につながりかねず、厳に慎まなければなりません。
裏を返すと、通帳を管理していた人は、引き出したお金の使途について、裏付けとなる資料・領収書等を整えておくよう、日頃から注意しておく必要があります。たとえ煩雑であっても、これを日々励行することが、唯一、相続発生後に自身に対する責任追及を予防する方法になるのです。
また、通帳からの引出しと使途との関連性が分かるように、多額のお金をまとめて引き出すのではなく、必要性が生じた時に必要な金額だけを引き出す、という工夫もしておくと良いでしょう。
被相続人から生前贈与を受けたような場合は、贈与契約書を作成するか、あるいは相続時精算課税制度選択の届出をするなどの工夫が必要です。
また、こういった引出し行為は、往々にして被相続人の心身が衰えた場合に同居の親族が行うことが多いことからすると、被相続人の生前に成年後見等申立てをして、財産を裁判所の管理下に置くことも、実は「争族」の予防に適しているのかも知れません。
ただ、どうにも説明がつかず横領としか思えない預金の引出しについては、然るべき法的手続きをとる必要がありますが、これについては①通帳や印鑑の管理状況、②引出し行為時の被相続人の健康状態、③金融機関の払戻請求書の筆跡等の調査、④金銭の流れについての綿密な主張・立証が必要です。
また、被相続人が寝たきりで本人以外が引き出したことが明らかな場合はともかく、被相続人が元気だった場合には、一体誰が預金を引き出したのか証拠上明らかでない場合も多いのが現状ですし、引き出した人がそのお金を使い込んだことの立証も実は容易ではありません。
この問題については、主張立証責任の帰属について裁判所内部でも意見が分かれており(判例タイムズNo1414、74頁以降)、一般の方では適切な対応は困難です。悩まず弁護士にご相談下さい。