相続人の範囲と遺産
1 相続人の範囲について
遺産分割協議に参加することが出来るのは、法定相続人、包括受遺者及び相続分譲受人となります。
(1) 配偶者、子(直系卑属)、父母・祖父母(直系尊属)、兄弟姉妹が法定相続人に該当することは、先に説明した通りです
内縁の配偶者には相続権は認められません。
また、実親子関係の存否が争いになった場合は、親子関係存否確認の訴え、認知(無効)の訴え、嫡出否認の訴え、父を定める訴えなどによって、相続人を特定して行くことになります。
(2) 養子
養子も実子と全く同じ立場で遺産分割協議に参加することが出来ます。
養親子関係の存否が争いになった場合は、養子縁組無効確認の訴え、協議離縁無効確認の訴え、養子縁組取消の訴え、協議離縁取消の訴えなどによって、相続人を特定して行くことになります。
(3) 相続欠格
故意に被相続人や先順位者らを死亡するに至らせて刑に処せられた者や、遺言書を偽造等した者(民法891条)については、法律上当然に相続権を喪失するとされています。
但し、登記や銀行における手続においては、欠格事由に該当することの証明書が必要となります。基本的には刑事事件の判決謄本(確定証明書付き)、欠格者本人が発行する証明書(印鑑証明書付き)を利用しますが、欠格事由に該当するか否か争いがある場合は、相続権不存在確認請求訴訟を利用することになるでしょう。
(4) 廃除
遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をしたり、重大な侮辱を加えた場合などは、被相続人は推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することが出来、また遺言で廃除の意思を表示した場合は、遺言執行者が廃除の請求をすることになります。
家庭裁判所が廃除を認めた場合、法定相続人は相続権を喪失することになります。
なお、遺言による廃除の場合、相続開始時に遡って相続人ではなかったことになります。
(5) 行方不明者、未成年者、認知症患者
これらについては、先に説明した通り、それぞれ不在者財産管理人、特別代理人、成年後見人等を選任して、遺産分割協議に参加させる必要があります。
(6) 相続放棄
被相続人に多額の借金があったような場合に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述すると、初めから相続人とはならなかったと看做されます。
(7) 相続分の放棄・譲渡
遺産分割協議の話合いにおいて、「自分の相続権を放棄するから後は残りの人達で自由にやってくれ。」と手続からの脱退を希望する場合があります。
これを「相続分の放棄」、自身の相続分を他人に譲渡する場合を「相続分の譲渡」と言います。
これと同趣旨のものとして、「相続分無き旨の証明書=私は既に被相続人から充分な生前贈与を受けているので、相続すべき相続分はありません。」が作成されることがありますが、実際にはそのような生前贈与を受取っていないにも拘わらず、便宜的にこのような証明書を利用する場合には、それに伴うリスクにも注意が必要です。
(8) 胎児、認知されていない子
胎児については、相続に関しては既に生まれたものとして扱うことになりますが、一方で死体で生まれた時は遡って相続権を失うことになりますので、法的安定性の見地からは、遺産分割協議は出生まで待つのが良いでしょう。
また、認知されていない子については、死後認知されたとしても、それまでになされた遺産分割協議は有効で、認知された子は他の相続人に金銭請求をなし得るのみです。
2 包括受遺者とは
包括受遺者とは、遺言によって包括的に遺産の遺贈を受けた、法定相続人以外の第三者を指します。
「包括的に」遺産の遺贈を受けた場合とは、全遺産の遺贈を受けた場合のみならず、遺産のうち一定割合の遺贈を受けた場合(=「1/3」という形で割合的に遺贈の対象を指定された場合)をも含みます。
3 相続分譲受人とは
先に説明した通り、法定相続人が自身の相続分を他人に譲渡して遺産分割協議から脱退した場合、この譲受人を相続分譲受人といい、これは法定相続人のみならず、第三者でも譲受人となることが出来ます。
4 遺産の範囲について
遺産には、被相続人の一身専属的な権利関係を除いた、一切の権利義務が含まれることになります。
(1) 不動産・動産
不動産については、基本的には登記名義に基づいて確定することになりますが、名義はともかく実体は他人の財産だと主張されることがあり、その場合はその点を前提問題として確定させる必要があります。
(2) 金銭債権
預貯金については、法的な厳密さを追求する限り、当然に相続分に応じて各相続人に帰属するものとされ、遺産には該当しないとされます。(定額郵便貯金など一部例外を除く。)。
但し、実際上は当事者全員の合意があれば調停においても審理の対象とされますが、審判においては審理の対象から外されることがあります。
(3) 債務
借金などの金銭債務については、当然に相続分に応じて各相続人に帰属するものとされているので、当事者全員の合意があれば調停においても審理の対象とされますが、審判においては審理の対象から外されます。
(4) 生命保険金・死亡退職金
生命保険金は、受取人として被相続人自身が指定されていない限り、遺産には該当せず、遺産分割の対象とはなりません。
また死亡退職金やこれに類する給付金は、法律又は各企業の独自の規定に基づいて、遺族の生活保障を図るべく支給されるものですから、これも遺産には該当しないとされています。
(5) 遺産の果実(不動産の賃料や預貯金の利息)
これらは相続開始時には存在せず、相続開始後に遺産の管理・利用によって初めて発生するものですから、遺産には該当せず、当然に相続分に応じて各相続人に帰属するものとされています。
なお、当事者全員が合意すれば遺産分割調停の対象とすることは出来ますが、審判の対象とはなり得ません。