最近良く聞く「遺言信託」とは何ですか
平成27年1月1日から相続税の基礎控除額を大幅に減額するとの相続税改正が行われ、「これからは一般人でも相続税を負担する可能性がある。」との不安感が広がったのか、近時、相続や遺言に対する高齢者の方の関心が高まっています。
これら一連の流れに応じて契約数が急増しているのが、信託銀行などが提供する「遺言信託」というサービスです。
ここでいう「遺言信託」の内容ですが、通常は、遺言作成段階から信託銀行が相談に乗り、信託銀行を遺言執行者に指定した遺言書を作成、相続開始後は信託銀行が遺言執行を行う、というサービスを指します。
この商品のうたい文句としては、①遺言作成時から専門家に相談に乗ってもらえる、②遺言書を保管してもらえる、③面倒な手続きを全て代行してもらえる、④大手銀行なので安心だ、といったものが挙げられています。
しかし、①相続に関しては法律、税金及び登記に関する専門的な知識が必要で、弁護士、税理士及び司法書士といった専門家が協働しつつ綿密な打ち合わせのもと作成することが望ましいですし、銀行によってはこれらの費用は別建てで請求しているところもあるようです。
次に、②については、通常、信託銀行は公正証書遺言を作成するところ、これは公証役場に保管されているので銀行が保管する必要など全くありません。
また、③手続といっても近時は代行してくれる士業も多いのですから、④結局「何となく安心だから。」という感覚だけで、信託銀行の営業攻勢に負けて依頼をしてしまう方が多いようです。
中には、相続税申告の税理士費用についても、別建てで請求しているところもあり、これでは何のために信託銀行に頼むのか、そのメリットを疑わざるを得ないケースもあります。
これら「遺言信託」は総じて報酬が高く(契約時に30~50万円、相続発生後に100~500万円以上)、その主たる費用は相続発生後に遺産から差引かれることになるのですから、結局、困るのは遺言者本人では無く残された遺族なのです。
無論、これらの商品の中にも真に役立つ素晴らしいものもありますので、どのような商品を利用するのか、じっくり吟味すると良いでしょう。
また、このような商品を勧誘する場合、高齢者の判断能力が衰えていることが多いのですから、顧客の知識・経験・財産状態・取引の目的に適合した形で勧誘するよう、金融機関側もコンプライアンスを重視した対応を取ることが強く求められます(適合性の原則)。